今回は行政上の法律関係についてです。
たとえば行政と国民の法律関係は、行政法が適用される場合と、私人間と同じように民法が適用される場合があります。
そこで、どのような場合に民法が適用されるかなど見ていこうと思います。
民法177条の適用について
民法177条は、不動産はきちんと登記をしておかないと、他の人に対して自分の所有権を主張できないというものです。
自作農創設特別措置法による農地買収処分について、民法177条が適用されるかというものがありました。
最高裁はこれについては、民法177条の適用を否定しました。
自作農創設特別措置法の趣旨をみると、農地の買収処分は真実の所有者に対して行われるべきものだったからです。
そのため、この買収処分にについては、登記簿上の所有者ではなく、真実の所有者に対して行われるべきとされました。
次に租税滞納で国が土地を差し押さえた場合の最高裁の判断です。
これは、国の権力的な行為だけれど、内容としては、
普通の債権者が差し押さえすることと違いがないということで、民法177条が適用されました。
行政上の法律関係については、行政による処分の根拠となっている法律の趣旨や内容をみて、
民法を適用するかどうかを判断しています。
消滅時効について
自衛隊の車両整備工場で自衛隊員が事故で亡くなる事件がありました。
そこで、国の安全配慮義務違反の損害賠償を求めました。
この時効は民法167条では10年とされています。
ところが、会計法30条が国の金銭に関する債権の時効は5年と定めていました。
最高裁は会計法の5年ではなく民法の10年の時効を採用しました。
会計法の5年という時効は国の義務は早く決めておきたいという行政上の便宜をはかる趣旨のものだが、
今回の事件に関しては、私人間の関係と変わらない内容のため行政上の便宜を考える必要はないと判断されました。
公立病院と私立病院の診療につての債権についても、同じように民法が適用されています。
地方自治法236条によると地方公共団体の時効は5年ですが、
診療は公立でも私立でも変わりはないものなので、最高裁は民法を適用し3年としました。
公営住宅の使用について公営住宅法と民法や借家法の関係はどうなっているかという問題がありました。
最高裁は公営住宅法は特別法として民法や借家法に優先するけれど、一般法である民法や借家法も適用されるとしました。
民法の信頼関係の法理が適用され、信頼関係が破壊されるほどのことがない限り、
公営住宅法に基づく明渡請求はできないとされました。
建築基準法65条と民法234条のについての問題もあります。
これは、民法では境界線から50センチメートルの距離をとって建物を建てないといけないのですが、
建築基準法では防火地域などで外壁が耐火構造の建物は境界線に接して建物を建ててもいいます。
これについては、最高裁は建築基準法を民法の特則として優先するとしました。
公物とは、国や公共団体が、直接、公の目的のために提供しているものをいい、公用物と公共用物があります。
公用物は、官公署に使われるもので庁舎や敷地などです。
公共用物は、公衆の使用に提供されるもので道路、河川、海岸、公園などです。
公物の使用関係については、一般使用、許可使用、特許使用に分類されます。
一般使用とは、道路の通行や河川での水浴びなどの基本的な自由な利用のことです。
許可使用とは、一般には禁止されている使い方を申請によって許可してもらう使い方のことです。
工事のための道路利用、公園での露店の出店などがあります。
特許使用とは、特定の人に独占的に使用を認めるものです。
道路に電柱を設置したり、下水道管やガス管を埋設することなど事業者に特権を与えるものです。
公物について民法上の取得時効が適用されるかという問題があります。
民法162条2項は、10年間、他人の物を自分の物と信じ、平穏公然と占有した場合は所有権を取得できるとしています。
古い考えでは、公物は公法上の法律関係があり、取得時効は適用されないと考えられていました。
ところが、これについて、最高裁は取得時効をみとめました。
長年、公の目的に提供されず放置され、形も機能も変わってしまっている。
他人が平穏公然に使用していて、しかもそれによって公の目的が損なわれたわけでもない。
そのものを公物として維持する理由もない。
以上のことから公用は廃止されている等しいと判断されました。
このように公物についても、一律に民法を排除することはなく、具体的な場面ごとに判断されています。
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